アンスティチュ・フランセ東京で『ベルヴィル・トーキョー(BELLBILLE TOKYO)』2011年 監督:エリーズ・ジラールを観ました。
フレンチ・フィーメール・ニューウェーブ企画の3本『グッバイ・ファーストラブ』、『スカイラブ』、『ベルヴィル・トーキョー』の中の一本。今回は、3本とも素晴らしかった。
『ベルヴィル・トーキョー』は、一番現実的で悪くなって行く男女の関係を見続けるという少々きつい映画です。でも、かなりのカップルがこういう関係を生きているように思うので驚かないといえば驚かないし、こうなっちゃうんだよねどうしても。と思ったり。。
それでは、ネタバレ注意でいきまーす!
まずキャスティングの感想から言いますと、男性役の顔が絵に描いたように女性を裏切るだろうなっていう顔をしてます。思い出したのは、私の友達のお母さんが、あるロックグループのボーカルを「こういう顔の男には気をつけろ」と言った話。カッコいい男だけど絶対に女関係でやらかす顔ってあります。この役者さんはそういう顔してる。なんだか誠実な顔をしてない。でもやっぱり好きになってしまうのも分かる。。困ったものだ。
で、この映画のカップルは、実生活でもかつてカップルだったそうで、この映画の後に自分たちが主役の映画『わたしたちの宣戦布告』(妻役のヴァレリー・ドンゼッリが監督)を撮ったそうですが、かつて愛し合っていたという事実は、監督がキャスティングの際にかなり重要だったと語っています。壊れて行く二人であるけれど、実際に愛し合っていた過去がある。映画では良い関係の時期が全く登場しないけれど、二人には実際には過去に良い時期があった訳で、そういう微かな体にしみ込んだ記憶が画面から漂うことは大切だったと。うん、確かに二人はお似合いなんですよね、感覚のスタイルが似ている感じ。今回もキャスティングの妙ですね。
二人が住むアパートや、女性が勤める小さな映画館など、インテリアや部屋の暗さや広さや狭さ、色んな所のこだわりが相当好きでした。本棚の本に暖かみが全然なかったり、着ている洋服や、体の細さも含め何だか活力があまりない感じがしっくりくるのです。冬の間に限ったストーリーですが、冷めた二人が全然あったまらない温度が画面から感じられます。
男性があまりにいい加減という感想が多いのですが、私の周辺の男性みんなそんな感じになっちゃってる人多くて、「面倒な事からは逃げる。でも、たまに愛してるとか好きとか言って寄ってくる。その可愛さで一瞬関係が戻る。でも同時に浮気も平気でしてる。どっちも好きなんだよ。だけど、現実的な面倒は知らね」みたいな(あーあーもう)。そうやって繰り返して、楽しくないけど別れてないカップルはいっぱいいますよね。良い事を思い出して好きと嫌いを行ったり来たり。そうなってしまうの分かるのです。どうしたらいいんでしょね、これ。
映画の中で、出会ったきっかけのCDを贈られて二人で歌って、笑いながら泣くシーン。私はあそこが好きじゃない。すごく嫌な気分になった。それは、こうやって関係が修復されたように見えて全然修復された訳じゃないのが分かるからかな?なんなんだよ、こうやってる間も浮気相手とは別れてないし、CD贈ってごまかしてるって感じた。でも、こういう事されると一瞬笑っちゃうでしょ?仲良しに戻っちゃったり。。そんな自分の弱い所が見えるからかな?でも、嫌な気分になるっていうのは、監督の思うつぼというか、感情が揺さぶられるのは、ものすごく自分の心の奥にある見たくなかった感情を突かれたからであって、それはこのシーンを撮った監督の成功でもあるんですよね。複雑です。
どのシーンにしても、まったく楽しい気分にはならないけれど、唯一、彼女が勤める映画館のおじさま二人は良いですよね。彼女の味方の仕方がいかしてます。
もうこれ以上上手くいかない事って分かるんです。でも、無理矢理分からないふりしたりして関係を終わらせられない。痛い所をチクチクさされ、さあどうする私?そんな事を考えた。全てがドライなんだけど、最後のシーンの主人公の妻が歩く冷たい湿った雪みたいな複雑な映画。
映画館が水浸しになるエピソードが深い。一度濡れちゃったフィルムはもう二度と元には戻らない?
けっこう胸が痛いぞ!でもあなたならどうする?ぜひご覧になってみてください!