『ディオールと私』Dior & I を Bunkamura ル・シネマで観てきました!
映画のネタバレ満載なので、気になる方は読まないでくださいね!
2012年にクリスチャン・ディオールのアーティステック・ディレクターに抜擢されたラフ・シモンズがお針子さんやスタッフに初めて紹介される時から初コレクション発表までの緊迫した8週間を追ったドキュメンタリー。
この映画は、始まった瞬間からずーっとノンストップ前のめり、全てのシーンを拍手しながら(心の中で)観ていたくらい最高に最高でした!
ラフ・シモンズの繊細なキャラクター。プレタポルテしか経験の無い彼が、オートクチュールを初めて受け持つのです。そのプレッシャーはいかばかりか!終始地味なネイビーのセーターを着て、「写真、映像、舞台での挨拶全て断る。顧客との握手も断る。舞台に出るなんて失神する。」と暗い顔で言い続ける彼が、最後にどんな行動をとったと思いますか!「まだ早い!」とスタッフが止める声も聞かず、自らコレクション会場の階段を駆け上る姿。もう涙なしで観られるでしょうか!
コレクションが始まる前に、屋上で涙にむせぶ彼の姿。抱きしめたくなります。
繊細な彼の右腕として一緒にディオールにやって来たピーター。彼の明るく人懐っこいキャラクターがどんなに彼を安心して創作に専念させていたか分かりません。
ラフは、デザイン画を描かず、一点ごとにファイルを作り、その中身のイメージを伝え、スタッフが自由な発想でデザインを提案。それをまたラフが選んでゆくというスタイルなんですね、ある意味スタッフを信用し、自由な発想を取り込む面白いやり方です。
「毎日アートを観ます。そうすることで霊感が降りてくる」そう言うラフ。私も、アートを観る事でインスピレーションが降りてきます。だから、煮詰まった時ほど外に出てアートを観る事にしています。ラフが同じ事を言っていたのが嬉しかった。また外に限らず、ネットでアート作品をリサーチすることだっていいのです。ラフもネットサーフィンで見つけたお気に入りの作家の絵をコレクションの生地にしようとするシーンが出てきます。「絶対に実現できると信じている。駄目だったらプリントした紙を使う!」とプリント業者を困らせているラフ。でも、きっちり仕事をやってのけた業者さんもブラボーでした。
この時のプリントの生地は、銀座ディオールでの「エスプリ・ディオール展」で気になっていたドレスの生地でした。この生地の誕生の秘密が知れて大興奮でした。
左側がそのドレス。複雑な絵の具の重なりをそっくり再現した生地。実物はとても可愛いのです。
また、「エスプリ・ディオール展」でも印象的だった、伝統的ディオールのドレスを現代に復活させた新ディオールを代表するような最高に可愛い可憐なドレス。
このドレスを着る事になるモデルのオーディションシーンも印象的でした。「綺麗だけど表情が不安そうだ。歩き方もぎこちない。改善できるか?」とラフに言われたモデル。「ディオールは初めて?」と聞かれ、「はい、ショーに出るのも初めてです。。」と言うのです!ショーが初めてのモデルさんが、フィッティングで「ミス・ディオールだ」と皆に言われるほど可愛らしく、その彼女が本番で緊張し、足も震えているだろうという表情で階段を昇って行くシーン!もう最高でした!
そうそう、最終フィッティングの時、お針子さんの責任者がニューヨークに出張して遅刻するのです。遅刻の理由は、ニューヨークの顧客に呼ばれて飛んで行ったというのです。ラフはあり得ないと怒りますが、メゾンにとって毎シーズン5000万円買う顧客を無視する事は出来ないと。。更に、コレクションの準備の最中も同時進行で個人客のオーダーに応え、顧客宅に行ったり縫ったりをしています。メゾンとは顧客が作っているのだということが分かるシーンです。そして、世界には想像を超えた暮らしをしている人たちがいるんだなーと驚きました。
ラフが、タクシーの中でこう言うシーンがあります。「みんな僕をミニマルなデザイナーだと言う。僕のブランドはミニマルだと。僕はその意見が意外だ。僕の才能はそれだけだというのか?僕のやろうとしていることはもっと違うところにある」自分への評価に苦しむ姿。。自分の目指す物はもっと遠くにあるのに。。そんな苛立。芸術を選んでしまった者がずっと抱えなくてはならない苦悩です。でも、彼がはっきりと僕は違うんだ。と言い切っていることに心が震えました。
とにかく、椅子の背もたれに一時ももたれる暇はありません。ラフの一言一言、スタッフの仕事、言葉、コレクション、全て見逃さないで!全てしっかり記憶にとどめたい映画です!
ラフ・シモンズ愛してます!