TOKYO2021 un/real engine ―― 慰霊のエンジニアリングを観て

Tokyo 2021

戸田建設が建て替え前の本社ビルで開催するアート展「TOKYO 2021」の中の美術展「un/real engine ―― 慰霊のエンジニアリング」を観てきました。

参加作品の中で印象的だった2作品に絞って感想を書きます。

 

竹内 公太「盲目の爆弾」

竹内 公太 「盲目の爆弾」

パッと観た瞬間は、普通のビジュアルアートで、モニターにイメージを映し出している作品かと思ったのですが、何やらどうも内容が日本の風船爆弾に関するもののようで何故か気になってしまい、ヘッドホンを付けてしっかりと見始めたところ、その綿密な調査に基づいたであろう内容と音声の奇妙な感覚にすっかり見入る結果となってしまいました。

調べたところ、竹内公太さんは米国で6ヶ月滞在中に日本の風船爆弾の歴史に関する資料を調べ上げ、この作品を制作したとのことで、やはり、ただ感覚的に不思議な映像を流しているような作品とは全く違う痺れのようなものが映像と音から感じられてしまったのです。

そもそも風船爆弾を戦争中に日本が作ったという事実は、少し笑い話のような感覚を持って私たち日本人は学校教育の中で教えられ、その過程や結果についてはほぼ教わっていないのです。都市伝説に近く、そんな馬鹿馬鹿しい爆弾を作って勝てると信じていた昔の人たち、少なくとも私が受けた授業の印象はそのようなものでした。

しかし、プレスリリースによれば、9300発もの風船爆弾がアメリカに向けて放たれ、民間人への犠牲者を生んでしまっていた。まず、はっきりこの事実に衝撃を受け、今現在の日本があろうことか再び突き進んでいる愚かな戦争を容認するような堕落の道に絶望感でいっぱいになってしまったのです。

暗い洞窟を超音波を使って飛ぶコウモリをもじったエコーのようなカチカチという音響と、機械翻訳的音声が、心を持たず機械のように戦争に突き進んだ日本の愚かさを表しているようでした。最初の印象と本当にガラリと印象が変わってしまった作品です。

大変興味深く、作者の竹内公太さんへの興味も生まれました。

私の作品を観ての想いは、プレスリリースの中の下記の言葉と一致しています。以下部分引用です。

風船爆弾 は、相手側に何をもたらすか、視認する手段もなく大量に放たれ続け、作戦終了しました(実 際は 6 名の民間人を殺害していました)。この点で、自ら進んで盲目に陥ることで戦争を推進 した、日本という国の技術礼賛体質をよく表しているように思えます。

この作品が個展で発表された時のプレスリリースとアーティストステートメンツもぜひご覧ください。

竹内 公太「盲目の爆弾」PRESS RELEASE & アーティストステートメンツ

私は、今、日本が過去の過ちを反省することなく、日本賛美、そして、隣国嫌悪を煽り、戦争にさえ向かっているような現状が恐ろしく、悔しくてなりません。今、この作品を観るチャンスがあり、この作品が展示されていることの意味にもっと多くの人が何か感じて欲しいと思います。

福島在住の作者は、原発事故に関連する作品も発表しています。どうかどうかもうこんな過ちを繰り返さない国に戻って欲しい。こういう作家がいてくれたことに感謝と尊敬を持ちます。ありがとうございます。

 

中谷芙二子「水俣病を告発する会ーーテント村ビデオ日記」

中谷芙二子「水俣病を告発する会」

中谷芙二子「水俣病を告発する会」

この作品は、中谷芙二子さんが1972年に制作した20分のビデオ作品を古い映像機が映している訳ですが、おそらく、その周りの壁や機械類も含めた作品となっていると思われ、その古い古い映像と、70年代風のボタンの付いた機材と壁にべったりと染み付いた黒い影、その全てが過去の暗い暗い負の歴史を語っているようで、音声もなく何も記載されてもいないけれど、私はすっかり水俣病のことや広島、長崎の原爆のことを思い出し、やっぱり過去を反省して謝罪して、保障して繰り返さないことを誓って、犠牲者を出すような技術や化学の発展は栄光ではないことを自覚せよ。そう言われていると感じました。

無言で質素な展示からものすごい量の圧が発せられていた恐るべき作品だったと思います。

 

さて、今回は建設会社が舞台であるアート展でありながら、技術力賛辞ではなく、これから始まろうとしているオリンピックと万博を前に、慰霊がテーマである展示が行われたことが意味あることであってほしいと思います。膨れ上がる予算、招致に纏わる疑惑、復興が進まない中での開催、オリンピックや万博の開催に疑問を持つ人達(私)と建設会社は真逆の立場にあるようにも思うからです。建築とは何かを壊して生まれるものであり、影の犠牲が生まれます。その中で、このテーマを良しとしたならば、その犠牲を見ないようにするのではなく、必ず反省の上での再起であるように。この展示が見かけだけでなく本当の慰霊と反省と再建であるようにと思います。

 

MES

この他、沢山のアーティストの作品が展示されています。知らなかった作家を知ることになったり、その作家自体への興味が湧いたり、好きな作品もそうじゃない作品もあります。その作品から何を思ったかをこうして思い出して記憶していくことが私を作っていくと思います。

TOKYO2021
美術展 9/14〜10/20
un/real engine ―― 慰霊のエンジニアリング
キュレーション:黒瀬陽平