この絵は私の作品「Saint Sébastien e Sainte Irène 2019」(クリックで紹介ページに飛びます)です。私は幼い頃から「聖セバスチャン」の絵画というか、聖セバスチャンという存在に心惹かれていて、どうしてもそれを題材に絵を描きたいと思う衝動から一気に描いた作品です。
聖セバスチャンの絵は様々な時代に多くの画家が描いていて、どの聖セバスチャンを頭に思い描くかは人によって違うと思います。幼い私がどの画家の聖セバスチャンを初めて観たのかは定かではありませんが、一目惚れに近い感覚でずーっと心の中に残っていた存在でした。
私は人魚姫の物語にも強い思い入れがあります。幼い時に読んで、あまりに辛くて今でも再度読むのを躊躇うほどに悲しい物語です。他の物語とは別格のハッピーエンドでは終わらないお話。それを読んで心が悲鳴をあげました。愛する人のもとに行くために、声と引き換えに人間の姿を手に入れたのに、そばに行っても声をかけることができない。この強烈な不条理に悲しいを通り越して絶望を感じていたように思います。これを読んでいなかったら?いや、読んでも単純に悲しいね、で終わる子供だったら今の自分は全く別の人生だったかも知れません。しかし、海の中から王子を見つめる人魚姫と完全に心が一致してしまったあの時の私を今でも思い出せます。私というものが決定的に分かるポイントではないかと思っています。
聖セバスチャンを見ている時の私は、人魚姫を読んでいた時のあの幼心と全く同じです。絵の中の聖セバスチャンは絶対に私の手には届かない。その悲しい眼差しは自分には向いてくれない。「どうか私に気づいてください。どうか私をあなたの元に連れて行ってください」本気でそう思ってしまいます。そう言いながら絵を見つめる自分の分身としてのイレーネとセバスチャン両方の目線からの意味を持たせた作品です。
聖セバスチャンに対する感情はその人のアイデンティティによって様々と思いますが、性別を限定することなくとも人それぞれに感情を揺さぶられる対象ではないでしょうか。
その聖セバスチャンに強く惹かれていたことで有名なのは作家の三島由紀夫です。彼の聖セバスチャンに関する『三島の愛した美術』という公開トークシリーズをアーカイブしたものを作家の平野啓一郎さんがTwitterでツイートしたリンクから知ったのですが、大変面白いものでした。興味のある方はご参照ください。
三島由紀夫文学館 三島の愛した美術
大変詳しい考察で、三島が愛した聖セバスチャンの絵や彫刻も載っています。私が知らなかった彫刻の聖セバスチャン、ベルニーニの弟子のジョルジェッティの作品が紹介されていましたが、その美しさは言葉になりません。
聖セバスチャンが作品に登場する三島由紀夫の「仮面の告白」は中学生で読んで衝撃的でした。三島由紀夫という人とは思想的に相容れないものも多いですが、何故か心惹かれる作家です。それは、同じ対象を理由は違えど愛しているというところかも知れません。人が惹かれ合う理由とは本当に深い不思議な部分のつながりなのだと思います。
最近、ブログは美術と関係ない話題も多かったのですが仕事では絵の仕事で忙しくやってます。美術界というものに思うところもあって、直接的な記事は控えていましたが、三島の記事を読んで今日は久しぶりに作品についてブログを書いてみました。
それでは!